名物燈籠

江戸時代のはじめごろ、石灯籠の手本とすべき13基が掲げられた(築山庭造伝)。

「名物の燈籠」である。

桃山時代に「露地」が完成し、社寺においては献灯のためのものであった灯籠が、庭においての景、または露地の照明具として用いられるようになり、鑑賞性としての側面もみられるようになった。

「築山庭造伝」で揚げられた13基であるが、それらは恒常的にに模造されていたかと言われるとそうではないようで、おそらく好みや流行などがあったと思われる。

その中でも有名になったといわれている13基の本歌を辿ってみたいと思う。

■当麻寺石灯籠 (奈良時代、奈良県 当麻寺)

 素材:凝灰岩

 高さ:2.27m

 宝珠:請花なし。

 笠:軒が全て破損している。

 火袋:現在は木製の四角形。

 中台:八角。単弁の蓮弁が八角の各角に配される。

 竿:中央に二筋巻かれ、胴張りのある円柱。

 基礎:蓮弁が失われている。

■春日大社柚の木石灯籠 (平安時代、奈良県 春日大社)

 寄進:藤原忠通(1137)

 素材:花崗岩

 高さ:1.8m

 規格:八角

 宝珠:後補。

 笠:勾配が緩く、軒も薄手で緩く反り、蕨手もない。各隅に降り棟がある。

 火袋:後補。

 中台:八角。蓮台のように弁が上まで延びた形。二段の段座が設けられる。

 竿:長めの円柱。帯が外に張り出さないのは古式。

 基礎:元は低平なものであったが、現在は六角。

■東大寺法華堂石灯籠 (鎌倉時代1254年、奈良県 東大寺法華堂)

法華堂は「三月堂」とも呼ばれるため、この灯籠を本歌としたものが「三月堂型」と呼ばれる。

 作者:伊権守行末(中国から渡来した石工)

 素材:花崗岩

 高さ:2.6m

 規格:六角

 宝珠:単弁の請花がつく。

 笠:薄めにつくられており、また曲線が緩やかで、力強く巻き上がる蕨手がつく。

 火袋:上区は横連子を二区、中区は上半に縦連子、下半に素文、下区は格狭間を二区。

 中台:薄めにつくられており、側面に二つの格狭間をつける。下端は単弁の蓮弁。二段の段座が設けられる。

 竿:長めの円柱で三節で胴張りがある。

 基礎:自然石が用いられ、単弁蓮華文が八葉、刻まれる低いもので古風を伝えている。

■元興寺石灯籠 (鎌倉時代1257年、奈良県 元興寺)

 素材:花崗岩

 高さ:2.5m

 規格:六角

 宝珠:請花なし。

 笠:曲線は緩やかで、蕨手がつく。(現在は欠失)

 火袋:全面上半に横連子、下半に二区の格狭間があり、中区一面に火口、二面に仏象(阿弥陀如来像、薬師如来像)、二面に上半縦連子下半素文、一面に上半開口下半素文。

 中台:蓮台式で、上端に請座が一段設けられ、下端は単弁の蓮弁を刻む。

 竿:円柱で三節。

 基礎:上端は複弁反花、側面は格狭間。(川勝政太郎によれば現在のものは鎌倉時代のものでなく、後補で思われるとされる)。

■広隆寺石灯籠 (鎌倉時代、京都府 広隆寺)

太秦型と呼ばれる。

 素材:花崗岩

 高さ:2.3m

 規格:六角

 宝珠:室町時代に後補されたが、最近盗まれたようで別のものがついている。

 笠:背が低く、軒先はやや上に反っている。

 火袋:前面が火口、後面が円窓となる。

 中台:側面は二区で横連子。中台以上が大ぶりとなっているため重厚感がある。

 竿:三節で、中節の四方に蓮花文の飾りがつく。

 基礎:円型で上端の反花はゆるく反転し、低い基礎は古風を伝える。

■燈明寺石灯籠 (鎌倉時代、京都府 真如堂)

燈明寺の本堂が大破した際、修理のため三井家に売却したのち、真如堂に寄進した。

 素材:花崗岩

 高さ:2.3m

 規格:六角

 宝珠:請花はなし。

 笠:蕨手がつき、精悍な佇まいである。

 火袋:仏像牡丹模様。

 中台:側面は走り獅子

 竿:円柱で三節。

 基礎:側面は二区で格狭間、上端は複弁。

■橘寺石灯籠 (南北朝時代、奈良県 橘寺)

 素材:花崗岩

 高さ:2.2m

 規格:六角

 宝珠:請花がつく。

 笠:蕨手がつき、屋根が丸みを帯びている印象です。

 火袋:上区は連子、下区は二区で花菱文。中区は四天王立像(持国天、増長天、広目天、多聞天)を薄肉彫され各頭上に円窓が開けられている。

 中台:側面は二区で走り獅子、上端は複弁のある火袋のための座を設ける。

 竿:円柱で三節。中節はやや張り出している。

 基礎:方形で側面に格狭間をいれた基壇の上に立つ。六面のうち三面は龍、もう三面は両脇に花菱文、中央に月輪内の蓮座上に宝珠を積み上げた三弁宝珠。上端の複弁反花は背が高く彫られている。

■般若寺石灯籠 (南北朝時代、東京都 椿山荘)

般若寺のものは椿山荘の模作であると言われているが、多くの般若寺型は基礎の背が高いため、般若寺のものが名物燈籠と言われていると思われる。

 素材:花崗岩

 高さ:2.7m

 規格:六角

 宝珠:請花の弁端が反転し、珠は蓮の蕾の形に写実的に刻み出されており、装飾性が見受けられる。

 笠:蕨手がつき、屋根の流れと下り棟の反りがやや大きい印象。

 火袋:中区の火口以外は牡丹、獅子、鳳凰、花麗を薄肉彫されている。上区と下区には種々の紋様が彫られている。

 中台:下端の単弁は二重に凹めた形で、側面は格狭間を大きくし、中心飾りを作ったものや花菱文など色々と彫られている。上端は火袋受けの小蓮弁の座が作られている。

 竿:円柱で三節。中節はやや張り出している。

 基礎:二重の基壇の上に立つ。側面の格狭間は、中心飾りをつける。上端の反花は背を高くした複弁で、竿受けの座の蓮弁は抑揚をつけて大きく彫られており、上端の周辺には連子の小珠文を配する。般若寺のものと比べて基礎の背が低い。

■高桐院石灯籠 (南北朝時代、京都府 高桐院)

細川三斎が師の千利休の形見として受け取り、自身の墓標としたという。

 素材:花崗岩

 高さ:1.9m

 規格:六角

 宝珠:宝珠はややぼってりとしており、請花も丸みを帯び温和な印象である。

 笠:蕨手がやや鉛直に立ち上がっている印象である。

 火袋:中区は火口が二面、彫刻の上に円窓をつけた面が二つ、残りの二面は完全に閉じている。上区は横連子と下区は格狭間が彫られている。

 中台:側面は一区で二匹の走り獅子を刻む。

 竿:円柱で三節。

 基礎:側面に格狭間。上端の反花は六角の角隅に複弁を配し、中央に小花が出る。

■春日大社西の屋石灯籠 (室町時代1454年、奈良県 春日大社)

 素材:花崗岩

 高さ:2.3m

 規格:四角

 宝珠:請花はなく、ずっしりとした宝珠がのる。

 笠:蕨手はなく。軒が力強く反っている。

 火袋:二面は火口、二面は彫刻の上に円窓。上区は二区で横連子、下区は二区で花菱文などの紋様が刻まれる。

 中台:下端は蓮弁。側面は二区で走り獅子が刻まれる。上端は二段。

 竿:四角柱で長めに作られている。

 基礎:側面に格狭間。上端は高めに複弁が刻まれる。

■祓戸神社石灯籠 (室町時代、奈良県 春日大社)

近年、春日燈籠といわれ火袋に若草山と神鹿が彫られるようになった元とされる。

 素材:花崗岩

 高さ:1.8m

 規格:六角

 宝珠:請花があり、宝珠は側面が直線的になっており、室町時代の特徴を醸す。

 笠:蕨手は巻き込みが少し丸みを帯びる。

 火袋:わずかに胴に膨らみがある。二面は火口、二面は彫刻の上に円窓、残りの二面は閉ざされ雄雌の神鹿が浮彫られている。上区は二区で横連子、下区は二区で花菱文などの紋様が刻まれる。

 中台:下端はゆるくふくれた蓮弁。側面は二区で格狭間。上端は二段。

 竿:円柱で三節。

 基礎:二段の六角基壇の上に立つ。側面は二区の格狭間。上端のゆるくふくれた蓮弁は複弁である。

■奥の院型石灯籠 (江戸時代、奈良県 春日大社)

 素材:花崗岩

 高さ:

 規格:六角

 宝珠:請花がつく。

 笠:蕨手がつく。

 火袋:二面は火口、二は雲が彫られ上に円窓、残りの二面は正面より左側に橋と水鳥二羽と柳、右側に雄雌の神鹿が彫られている。

 中台:下端は蓮弁。側面は二区で干支が彫られている。上端は蓮弁である。

 竿:円柱で三節、中節は張り出している。

 基礎:三段の六角基壇の上に立つ。側面は二区で千鳥・兎・波が彫られている。上端の反花は複弁である。

■八幡型石燈籠 (江戸時代、奈良県 手向山八幡宮 )

 素材:花崗岩

 高さ:

 規格:円形

 宝珠:請花なし。

 笠:中台と少し大きいくらいの直径であり、高さがある。

 火袋:火口を四角く貫通して開けられている。

 中台:竿の上節より少し大きく、少し不格好である。

 竿:円柱で二節。

 基礎:

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